フォード財団ビル Ford Foundation Building (1963-1968) by ケヴィン・ローチ&ジョン・ディンケルー (Kevin Roche & John Dinkeloo)
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このビルは、 室内に庭園付きアトリウムを設けるという考えを最初に示した先駆的オフィスビルとして、 建築計画の教科書には必ず登場する有名なビルだ。 それともう一つ、このアトリウムにはフォードの関連会社が一同にこのビルに入っていて、 アトリウムを介して「みな繋がっているのだ」という連帯感(同じ方向性を持つものの一員としての意識) を生みだそうという意図が込められている。 少なくとも、ものの本にはそう書いてある。
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さて42丁目ファサードを見ると、見る前に思っていたよりずっと重々しい感じがした。 それは花崗岩(赤御影石)による表面仕上げとその色(ピンクがかったグレー)のせいだと思う。 それまで白黒写真しか見たことが無かったので、もっと軽い白と金属色のビルだと思い込んでいた。 しかし名門フォードにふさわしい重量感が欲しかったのだろうか。 まあ単に重い訳ではなく、 巨大ガラス面やアトリウム上部の鉄骨架構などメタル+ガラスを駆使した比較的軽い感じを与える部分と、 重たいコンクリートの部分の構成体になっている。
それからこのビルに関してよく言われる事は、周囲のビルに合わせて高さを押えるなど、 周囲への配慮がよく為されているという事だ。 隣(東側)が空いている42丁目からの外観はダイナミックにして、 他のビルとの並びになっている43丁目は大人しいファサードになっている。 でも周囲との関係を言うのであれば、 周囲に結構緑が残っているのにどうして庭園アトリウムを作ったの?、とも言いたくなる。 勿論、雨でも濡れないしオフィスと連続したアトリウムは意味があるけれども、 少なくとも緑のない都会のど真ん中の貴重なオアシスっていう訳ではない。
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さて、中のアトリウムはなるほど大きくて見ごたえがあった。 ぐるっと見回した時の「空気の容積感」が、写真ではうまく伝わらないだろうと思う。 とにかく広いのだ。 しかしアトリウムの高さに比べ、植物の背丈がはずっと低かった。 もっと植物の背丈が高いものとばかり思っていた。 もし大きな木を植えたら、室内の緑という点がすごく強調されるだろう。 しかしここでは木や植物ではなく、 下の方に緑を従えた「空気」のヴォリュームを見せる事の方に主眼が置かれているようだ。 スペース(空気感)を介して、他の階つまり他の関連部門・会社が暗に意識される事を重視しているのだ。
しかし、それならば、本来なら各階とアトリウムを気密にしない方が良かったであろう。 ここでは各階からアトリウムに向けて窓を開けられないのだ。 窓を開放できるようにすれば、あるいは窓さえも失くしてしまえば、 各階の空気が伝わりあって、もっと強い連帯感が生まれるだろう。 ロイズ保険会社ビルの吹抜けのように、あけすけにすればする程その効果があるのではないか。
しかし恐らくは、開放したくても出来なかったのだ。 湿度のコントロールである。 植物にとっては必要な湿気を、逆にオフィス階では防がなければならない。 結果として、このアトリウムは各オフィスフロアから見ると、 他の外気に面するのと同じくらい厳重にガラスで遮断された、 もう一つの「外部」になってしまった。惜しい気がする。
アトリウムに人けがないと、このスペースはし〜んとしている。 各フロアから見てもとても静かな空間に思えるだろう。 ロイズ保険会社ビルの吹抜けの写真から想像されるような熱気、喧騒に対し、 ここでは落着きとか静謐があたりを支配している。
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