ライトの実作に触れたのは、 雑司ケ谷の明日館、芦屋の山邑邸と明治村の帝国ホテル(の残骸)につづいて4つめであった。 後期のライト建築に出会うのはこれが初めてだった。 そのシンプルで「有機的」な曲線の構成する姿は、 ジョンソンワックス社本部の内部の「樹」からもおそらく感じ取れるであろう ある種のモダンな感じが漂っていた。
「モダン」とは言っても、それは狭義のモダニズムとは違う意味である。 それは、むしろ時代や様式を感じさせない、曲線と丸みの織りなす不思議でユニークな形態感、 ある種の親しみやすさを呼び起こすオーラのようなものだ。 不思議と材質感がない。 或は、何かみな同じプラスチックで出来ているようなイメージにおそわれる。
しかし注意すると、その「モダン」さというオーラの奥にある何かは、 もっと古い時代のライトの装飾された大窓や屋根の醸し出すたたずまい・落着きのようなものと、 どこかでしっかり呼応しあっているような気がする。 同じライトという人物の鼓動が、どちらからも聞こえ伝わってくるようだ。
1 拡大
2
3 拡大
4 拡大
館内見上げの写真から分かるように、この建物の主題はスパイラルである。 コイルを巻いたような外観は非常にユニークである。 1Fレベルを取り巻く帯のような低い庇に吸い込まれて中に入ると、 薄暗いエントランスから一気に開放されたように光のシャワー(トップライト)のある大吹抜けに出る。 その周りを階段がぐるぐる巻きに取り囲む。 ここからエレベーターで上に上がって、螺旋を下りながら絵を観賞するのだ。
この美術館は称賛と批判を浴びて来た。 批判は絵の展示方法にある。 床が常に斜めで観賞しにくい上に、展示壁面に柱形が出てしまってスパンに区切られているのだ (スパンはそう・・10m前後だろうか)。 実際に観賞しにくいかどうか、どの程度か、それを体験することが今回見に行く主な目的の一つだった。 まず知りたかったのは、絵も斜めの通路に合わせて斜めに飾ってあるのか?、という事だった。
答えはイエスである。 実際見た感想としては、人間は天井や床、横方向の材に合わせて水平を認識するようだ。 だから多少斜めになっていても、その場に居るとそれを水平だと感じる。 それに合わせて絵が飾ってあれば、辻褄が合っているように感じるのだ。 某ガイドブックには、この美術館について 「常に平衡感覚を修正しなければならないために作品に集中できない」などと書いてあったが、 平衡感覚を修正する必要なんてそもそもなかった。
但し、美術館本館の展示場所には大判の絵しか飾っていなかった。 つまり「床なり・天井なりに見るから平衡感覚の修正が要らない」というのは、 大判の絵が飾ってある時だけの話かも知れない。 事実、小さい絵は全て本館ではなくアネックス部分に展示してあった。 アネックス(タワーギャラリー)は1994年の増築部分で、 水平床の(つまり通常普通の)展示場所である。
5
6
7
8
本館螺旋部分ではカンディンスキーの作品を中心に、 大判の絵を各スパンに3点ずつ展示というパターンが一番多かった。 きっと、床が斜めでスパンに切ってあるこの展示場をどう生かすか、考えた末の決定だと思う。 ライト自身によるこの美術館の展示風景のドローイングがあるのだが、 その中ではスパンに一枚ずつ、非常に大きな絵を飾っている (フランクロイド回顧展1991目録P.208)。 つまり彼自身、大判の絵を飾る事を意識していたのではないかと思うのだ。
この美術館は、大判の現代絵画・作品の為の展示場所として、決して遜色あるものではない。 更にアネックスの増築により、より小さい作品と非常に大きい作品の為のスペースも確保した。 斜路を降りながら見るというこの観賞スタイルは、 見る人の体力的負担を軽減し、充実した観賞体験を起こす有効な方法だと思う。 つまり現状のこのグッゲンハイム美術館に対しては、観賞上の批判は何も当たっていないと思う。
螺旋スロープを降り終えた後には、それまでの美術館では得られなかった滑らかで快適な観賞の余韻が残った。 ライトのこのこじんまりした美術館は、 見る人を心地よい有機的カーブとスロープで包まれた新たな観賞の世界へといざなう。 都市が嫌いだったライトが都市に残してくれた貴重な財産である。
(柱:滑らかで快適な観賞の余韻が残った<筈である>というのが正直なところであった。 というのは、この私はクレーやミロの作品であれば大好きだから喜んで見るが、 ここで見たカンディンスキーの絵の大半はピンと来なかったからだ。 その他の展示してある現代作品にも共鳴し得ないものがあった。 つまり螺旋通路で見た作品は美術内容的に私にとってはいまいちだったので、 感動した、と言い切れないのである。勿論これは美術館のせいではない。)
より広域を表示する
■ 2001-2006 Copyright. All rights reserved |
トップページを表示 |