アメリカン・ラジエター・ビル
American Radiator Building (1925)
by レイモンド・フッド (Raymond Hood (1881-1934))


ゾーニング法による新形態の模索。アールデコとゴシック風装飾による全体的魅力
窓を開けるのに飽き飽きしているフッドは、ビルを黒く塗って中が目立たないようにした(「錯乱のニューヨーク」)
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ニューヨーク公立図書館の脇に建つこのビルは、こじんまりした小規模なビルだ。 一見変わった趣味ではあるが、ニューヨークには変わった趣味のビルが沢山あるから 「その中の一つだ」位に見過ごしてしまいそうなビルである。 このビルの設計当時、フッドは1922にハウエルズと共にシカゴトリビューン社コンペで優勝し、 一躍有名になったばかりである。 そう言えばこのビルの頭の部分、トリビューン社案にかなり似ている。 このビルが何でそんなに変わったビルに見えるかと言えば、 ビルの色(黒)と装飾部分の金色の使い方である。

「錯乱のニューヨーク」によれば、 フッドはファサードに穿った窓の穴により、垂直に聳え立つビルの佇まいが損なわれると感じていた。 「・・そこでフッドはビルを黒い煉瓦で建てようと決心する。 そうすれば窓の穴 −つまり内部に別の現実があることを知らせるいまいましい存在−  は縦長の建物の中に吸収されて外から気づかれないようになるだろう」。 そして金色の装飾は、ビルの所有者を示す宣伝効果であるとして施主に説明される。

しかしこの頂部といい金色装飾といい、全てはフッドが抱いた (そしてマンハッタンが夢見た)自己陶酔的な摩天楼の姿の現れである。 フッドはタワー部の面積を縮小した代わりに西面にも窓を開けてオフィス部の賃貸価値を高めたが、 これも実は新しい<摩天楼>という生き物の形態をこの都市に導入する口実に過ぎなかった (同本の見方より)。

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そのような初期の開拓的摩天楼であったにもかからわず、 今見せる佇まいは実に控えめな感じである(まぁ、小さいせいだけど)。 今でも黒色と金色の対比がしっかり保持されているのが好感が持てる。 窓が本当に目立たないかどうかは意見の分かれるところだろう。 ただ、主張の強い黒色のおかげで壁部分が地ではなく図になって見えるので、 相対的に窓から来る視覚的重要度が下っている気はする。つまり窓は目立たない。

尚、AIAのNYガイドによれば、1Fファサード(ブロンズと磨かれた御影石、黒大理石)と、 鏡を貼ったロビーも近くに寄って見るとよいとの事である。 現在ここはホテルである。






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[参考]
  • 「錯乱のニューヨーク」レム・コールハース著、筑摩書房
  • "AIA GUIDE TO NEW YORK CITY", Three Rivers Press, 2000


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