シンガー・ビル
Singer Building (1904)
by アーネスト・フラッグ (Ernest Flagg (1857-1947))


取り壊された「幻の」シンガービル(1908,160m)を設計したフラッグによる小規模ビル。伝統的モチーフの引用
567.H.gif



「シンガービル」と言っても、 同じ建築家アーネストフラッグが1908に建てた巨大なシンガービルの事ではない。 大きい方は1970に取り壊されて跡形もない。 この建物はそれと同名の、 建築家フラッグの作風を見るためのごくささやかなサンプルとなるビルである。

1908に建った巨大な「幻の」シンガービルの方は、 1899に建てた建物の上に塔を付けて全体の高さを160mにしたというものである。 この高さはそれまでの高層の建物の倍近いものであったという。 「デザイン的に見るとこの作品は、基壇部と塔部がかなり唐突に組み合わされており、また、 様々な伝統的建築モチーフが不思議なスケールで用いられている」 (「ニューヨーク摩天楼都市の建築を巡る」より)。 是非見たかったものである。しかしあっけなく取り壊されてしまった。 このビルに関して、お便りを下さったかたが絵はがきの画像を分けてくださった → 幻のシンガービルの絵はがき

566.gif
1
568.gif
2  拡大


さて、「シンガービル」を紹介するに当たって、ひとつお断りしなければならない事がある。 この「シンガービル」にはファサードが実は2つあって、私はそのプリンス・ストリート側のやつだけを 見てしまったようなのである。 ブロードウェイ側に、もう少し大きなファサードがあったらしいので、 見に行かれる人は是非そちらも見て来てほしい (という事は、建物は鍵形をしているという事か?)。

ファサードを見ると、 アールヌーヴォー的と言えば言えるがもっと一般的な感じのする植物モチーフ、装飾パターンがあって、 建物全体は緑と煉瓦色に塗り分けられている。 AIAのNYガイドによれば、このビル壁面のテラコッタや、後退したガラス面は、 当時のビルとしては avant-garde (アヴァンギャルド)だったそうだ (テラコッタはブロードウェイ側のファサードで見られるようである)。 またこのファサードはカーテンウォールの先がけともされる。

これだけから幻のシンガービルを想像する事は、ちょっと不適切だと思うが、 ただ、ここの装飾のパターンは、アールヌーヴォー直前にパリなどヨーロッパの一部の建物で行われていた、 当時のいわば末期的な装飾模様と共通するものがあると思う。 爛熟しすぎて末期症状を呈していた19c末ヨーロッパの装飾文化・装飾を含んだ建築デザインから、 幻のシンガービルのデザインも多くを受継いでいただろうと推測する。






_map.gif

より広域を表示する


[参考]
  • 「ニューヨーク摩天楼都市の建築を巡る」小林克弘著、丸善
  • "AIA GUIDE TO NEW YORK CITY", Three Rivers Press, 2000


   2001-2006 Copyright. All rights reserved
トップページを表示 top.gif