フラットアイアンビル
Flatiron Building (1902)
by ダニエル・バーナム (Daniel Burnham (1846-1912))


2つの街路のパースペクティブ焦点となるべく建てられた、縦に細長い建物
蜜実な細部による重厚な外観
シカゴ博ホワイトシティの立役者バーナムによる、都市と建築の調停を目指した建物
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このビルはすごく外装模様に凝っている。 設計者はシカゴのホワイトシティをプロデュースしたバーナムである。 つまり様式擁護者の手によるビルである。 しかし全体の印象として、いわゆる様式的表現がそのまま反映しているようには見えなかった。 確かに、よく見るとひとつひとつの装飾部分の意匠は様式建築から取ってきているように見えるのだ。 なのだけれど、全体からするとこれはまぎれもなく「ビル」なのである。 つまり、それまでの様式建築の姿からは一旦縁を切った、 まったく新しい建物のカテゴリとしての「高層オフィスビル」なのである。

但し、新しいカテゴリと言っても、 これが出来た当時は、いやしくも建築たるもの装飾で身を飾ってこそ建築であると思われていた。 このビルは、そんな当時の人々や建築家が持っていた共通の「建築観」が、 どのように新しいビルディングタイプ(新しい形態の建築)に適用されたのかを見る、 非常に貴重というか興味深い事例となっているのだ。

そして、ボザール流の古典様式の建築が当然石で作られるか、 少なくとも石で身を包むべきものであったのに比肩するように、 この新しい時代の様式建築(!?)も亦、石をまとっている。 このビルは、石肌が美しく見え、装飾の密度が濃くて、堂々と立派に見えるビルである。 ちなみに当時はエアコンは無かったはずで、いまどうなっているのか知らないが、 見苦しいエアコン室外機が各窓から出るような事は一切無く、景観が重視されている事が分かる。

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このビルは薄い、平べったい、と散々聞かされてきたせいか、実物を見ると却って太く(厚く)見えた。 そんなに薄いビルで果たしてオフィス効率がどうなのか心配して来たのだけれど、全然そういう心配はない。 十分な厚みがあり、当時フロアを22倍に拡張して見せた(22階建てという意味)成果を誇示している。 ある程度薄いというか平べったいという事は、窓が沢山取れるという事だし、 通りに面して何にも遮られていないから、オフィスビルとしては非常に条件の良いビルだと思う。

このビルを北の24-5丁目あたりから見ると(写真6)、 ブロードウェイと五番街の交差点のアイストップとして、巧みに意識して作られたさまがよく分かる。 今でこそ他のビルが高く建っているが、当時は高いビルと言えばフラットアイアンビルしか無かった筈だ。 北から見たエッジの正面性が如何に強かったか、それは異様ともいうべきものであったと思う。 アイストップと言えば、戦後作られた メットライフビル が、やはり強烈なアイストップである。 スタイルも時代も全然違うけれど、どちらもニューヨーカーに愛される街の景観を作り出した。

ちなみにバーナムの主要作品はシカゴにあり、 モナドノックビル(1891)、リライアンスビル(1895)などが有名である。

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地図


[参考]
  • 「ニューヨーク摩天楼都市の建築を巡る」小林克弘著、丸善


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