ニューヨーク市庁舎
Municipal Building (1907-16)
by マッキム・ミード&ホワイト (McKim, Mead, and White)


マッキム・ミード&ホワイト事務所が、当時マッキムが否定していた高層ビルに挑んだもの
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まず、ニューヨーク市庁舎というのには2つあるから注意されたい。 一つは シティーホール と呼ばれ、1813年に建てられた歴史的保存建築物だ。 ガイドブックで市庁舎と言えば間違いなくこちらを指す。 もう一つはこの1916に建てられた新しい市庁舎である。 古い方もまだ役割があって使われているらしいから、 両方とも「市庁舎」と呼べるのだ。 両者は隣り合っていて、この新市庁舎の下には地下鉄が走っている。

この建設話が持ち上がった当時、ホワイトはもう死んでいた。 マッキムは以前から、NYにどんどん増え続ける高層ビルに対し反対の立場をとっていた。 それにも拘わらず高層ビルのコンペへの応募を決めた最大の理由は、 事務所内の若手の熱意に応じるためだったという。 事実建物の設計は殆ど所内の若手が行った。 そして竣工の時には、マッキムもまたとうに亡き人となっていた。 敷地はカマボコ型の変則的な形をしており、 そこに整然とした古典様式のビルを建てることは難しかった (写真1は1F平面の模式図。中層部を薄茶色で示す)。

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写真を見た限りでは頭でっかちと言うか、 頂上の部分が取って付けたような印象を受けるけれども、 実物を近くで見ると、その巨大さの故に見え方がかなり違ってくる。 下の方は、間近に装飾を伴う石の表情がまず目に入り、 上の方は本当に上の方なので、 何か色々にぎやかな構造が見えるけれども距離感がすごくある。 現場で見るボザール的な石の表現は格調が高く、庁舎としては非常に相応しく思えた。 塔部分も全て石で出来ている(石をまとっている)というのは、 ボリューム感があって迫力がある。

問題は敷地形状である。不整形な敷地の不整形なビルが古典様式を表現する。 庁舎はどこからでも見られるから、高層部は360度ファサード(正面)でなければならない。 不整形平面のビル形状のせいか、遠くから見ると肩がいかっているみたいで、 いま一つ落ち着いたアングルがない代わりに、 どの場所から見ても、上部の塔(写真6)とその下の柱の表現 (写真7。ピアとピラスターが一緒になったような柱)が同じような風貌を見せており、 ランドマークとして印象深いものがある。 上部の塔、柱の表現は、プロポーションもなかなか良く思えた。

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敷地形状は悪いし、高層ビルだし、 ルネサンス的な様式を持込むには難しい条件である。 しかし先入観なしに「そんなものだ」と思って見たら、このビルはどこから見ても美しい。 洗練された都会的雰囲気も漂わせていて、気に入った。 最後になるが、この市庁舎の正面(西側)に回って見てくるのを忘れたから正面の写真がない。 行く人が居れば、是非写真4(東側)のトンネルをくぐって反対側(西側)も見てきて欲しい。






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[参考]
  • 「アメリカ様式建築の華」小林克弘著、丸善


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