ミュージアムマイルの高級アパート群(スタイルについての考察)




ここで紹介するのは、 ホイットニー美術館 周辺と、 そこから北に4ブロック行った辺りまでにあるアパート群です。 この辺りは格式のある高級アパートが多く立ち並んでいます。 散歩していると、子供を連れたベビーシッターを多く見かけました。 この辺りが高級住宅地である事が実感できます。

石や煉瓦の肌合いを大切にした、伝統様式のしっとり落ち着いたアパートの佇まいは、 ここに住む人達の生活の落着きを感じさせてくれます。 現代の建築もありますが、それらは周囲にマッチするように、 伝統様式や石の肌合いを非常に意識したものとなっています。


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ただ、伝統様式と言っても、ここに並ぶ古い住宅の「様式」なるものは、 19世紀的な折衷様式によるもので、恐らくは、更にアメリカナイズされています (ヨーロッパから連れてきた建築家によるものもあるかも知れませんが)。 ヨーロッパの伝統様式の各特徴を「スタイル」として咀嚼し、 言うなれば頭の中で仮想のスタイルブックを作り、 施主の好みをもとにそれを取捨選択して再構成したものが、 結果として現れる建物の姿に他なりません。

どのスタイルで行くか、というのが建物によって違いますから、 立ち並んだアパート同士で色々な違いが出てきます。 ある意味で言うと節操のないものです。


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ここでちょっと「スタイル」の話をしたいと思います。 ミュージアムマイルから離れてしまいますが、 まずフロリダに行ってきた人から聞いた住宅の作り方を話します (この話はフロリダに限らないと思います)。 そこでは、庶民レベルの住宅をひとつ作る場合でも、 例えば屋根にはジョージアン風の破風やペディメントを持ってきて、 中央部にはパラディアンウィンドウを持ってきて、壁はモスクの壁を真似て、 屋根は何、エントツは何とやった揚げ句、最終的に「まア、いいお家ができたワ!」となるのだそうです。

何と言うか、いいものを寄せ集めたら更に良いものになるだろうという、素朴な楽観主義があるそうです。 このマンガチックなまでの「折衷主義」も、 大元を辿れば、母国だったヨーロッパへのあこがれとか、 或は自分たちに伝統の蓄積がない事に対するコンプレックスが背景にある事は、容易に想像がつきます。 しかし、そうやってヨーロッパや各国建築を持ってくる場合に、 「スタイル」が媒介項になっている事に注意して下さい。


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もともとアメリカには古い建物がありません。 生きた環境として培われた様式建築(伝統建築)がないところに、 伝統的なものを外から移植して持って来ようとしたわけです。 その場合どうなるでしょうか。 もともとヨーロッパの建物が持っていた言うに言われない雰囲気のようなものは伝わりにくくて、 もっぱら外見を整理したスタイルとして入ってくるのではないでしょうか。 誰が見ても分かるのは<形>です。 形としての一般的スタイルこそが、共通の認識になり得ます。 建築を評する時の基準となり得ます。

この辺の事情は、19世紀のヨーロッパが折衷主義だった事により、更に拍車がかけられます。 皆さん御存知のように、ヨーロッパではピクチュアレスク運動などに端を発して折衷主義が風靡します。 折衷主義と歴史主義が19世紀ヨーロッパの建築を決定づけたわけで、 例えばエコール・デ・ボザールの教え方も様式の自由な引用、つまり折衷主義だったといいます。 ヨーロッパにおいても、「スタイル」を「スタイル」として形態的に操作する時代だったのです。 アメリカ建築界は、そんな時代に影響されつつ発展しました。

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こう言うと乱暴ですが、言うに言われぬ文化的なものへの断絶を、 形としてのスタイルに着目する事で乗り越えて行こうとするのがアメリカ流というわけです。 世界の色々な建物のあり方を、一旦形態的なスタイルというものに整理し置き換えて、 それを再構成する、非常に割り切った考え方が生まれたのだと思います。

さっき挙げたフロリダの住宅はその典型です。 もっとアバンギャルドな世界では、 例えば1932年のMOMAの「インターナショナルスタイル展」が、 モダニズムを世界に先がけて「スタイル」としてまとめ上げる作業でした。 これは、スタイルを中心にものを考えている土壌から出てきたものです。



















さてさて、すっかりスタイルの話しになってしまいました。 ミュージアムマイルの古いアパートも亦、 明快なスタイルの操作により形作られていると言えると思います。 でもフロリダの住宅とは違って、もっと格調高い時代の格調高い建物です。 最近建ったものも、いい味だしてます。 皆さんがここに来られたら、果たして何をお感じになるでしょうか。





  
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