AT&Tビル
AT&T Building (1984)
by フィリップ・ジョンソン (Philip Jonson (1906-))


伝統的な建築モチーフの復活。頂部のブロークンぺディメント、足元の古代ローマ風アーチ
モダニズムの旗手であったPh.ジョンソンが、ポストモダニズムの歴史主義の立場を明確にした、非倫理的な(!?)記念碑的作品
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いまどんなガイドブックを見てもAT&Tビルという名前のビルは載っていない。 このビルは今では「ソニープラザ」だからだ。 しかしこのビルが出来た当初はAT&Tビルの名前で、 ポストモダニズムの歴史主義の代表みたいなビルとして一躍有名になった。 設計者のフィリップ・ジョンソンは、 もともと1932年のMOMAの「インターナショナルスタイル」展の仕掛け人として有名になった人で、 人生半ばを過ぎてから建築の実設計に手を染め、 1958年にはミール・ファン・デル・ローエとモダニズムの結晶のような シーグラムビル を作った。

そんなモダニズム一途だった筈の人が、 手のひらを返したようにポストモダニズムの象徴のようなこのビルを構想し作ったのであった。 ジョンソンのモダニズムの把握の仕方は、最初から「スタイル」だった。 「インターナショナルスタイル」展はまさしくモダニズムを「スタイル」の一つとして位置づける事だった。 彼の自邸グラスハウスができたとき、 彼は雑誌でグラスハウス設計のモトネタが何であったか詳細にバラした。 それは建築家の設計行為がいかにスタイルのつぎはぎであるかを赤裸々に示したものであった。

そんなジョンソンだからこそ、ポストモダニズムへの鞍替えが出来たのだろう。 歴史や伝統意匠を完全否定したモダニズムの、更に完全否定としての歴史主義、 しかしこれもスタイルなのだ。 そして、アメリカではこのビル以降「グラスモダン」ではなく石貼りがはやったり、 ビルのシルエットを工夫する風潮が生まれたという。 どこまでもスタイルの国だ。

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さてこのビルのてっぺんには大きなブロークンぺディメント(欠けた三角形)が載っている。 大きなアーチの下の東のエントランスを入ると、そこには交差ヴォールト的な天井があり(写真3)、 ローマ風のアーケード(アーチの列)がある(写真4)。 つまり歴史を参照し、歴史の参照をデザインモチーフとしているのだ。 外壁には薄桃色の花崗岩を貼り重々しさを出している(写真6を拡大すると石肌が見える)。

この石貼りを見ていると、何か少し1910年代などの古い時代のビルを連想させるものがある。 そういう古びたイメージもまた効果として狙ったんだろうか。 かつて空中から撮った全体写真を見た時には、 頂部のブロークンぺディメントや窓の切り方などから、デザインの新しさの印象を受けたのだが、 実物はかなり古さを演出している事が分かった。

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このビルの西側、56丁目と55丁目の間はアトリウムとなっている(写真7、8)。 以前はここは屋根がなく屋外だったそうだが、ソニーが屋根を架けたらしい。 IBMビル のアトリウムと同じように、テーブルが置いてあって誰でも休めるようになっている (写真には写っていないが)。 ソニープラザのエントランスでもある。






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[参考]
  • 「ニューヨーク摩天楼都市の建築を巡る」小林克弘著、丸善
  • "AIA GUIDE TO NEW YORK CITY", Three Rivers Press, 2000


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