ロックフェラーセンターは、ブロックに分割された複数のビルの集合である。 それぞれのビルが空に突き出るその様子は、実際に歩いてみるとやや間延びした印象を与えるものの、 とにかくGEビルがシンボリックにそびえ立ち、 プラザ(サンクンガーデン)があって全体イメージを統合している。 五番街沿いにインターナショナルビルを始めとする形を揃えた国際的ビルが立並び(写真1、2)、 プラザまでプロムナード(写真4)が続くさまは、このセンターの門構えであろう。 北西のラジオシティ(写真11、12)は、どちらかと言うと裏手に回った印象である。
街区の中に埋まっていて、そんなに全体が強く統合されているようには見えないのだけれども、 ビルの見た目が似ているし、 やっぱり「ああここはロックフェラーセンターなのだ」と思えるような作りになっている。
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プラザの前に立つGEビル(写真4、5、6、見出し)は、 正面から見ると、垂直にそそり立つと言うか唐突に地面から突出ている。 縦の線が強調されていて、上から下まで非常にすっきりと「立っている」という印象を与える (この窓の縦の線の使い方はフッドの デイリーニュース社ビル と同じである)。 そして、窓と窓の上下の間に黒い素材が使われている為に、全体が引き締まって見える。 洗練された簡素なセットバック、抑制された装飾、白茶けた建物の肌合い(まぁ古ぼけていると言えばいえるが)、 これらの醸し出す雰囲気は、1930代のマンハッタンのビルの中でも特に洗練され簡素化されたイメージだ。
ここに挙げた写真ではGEビルのセットバックがうまく映っていないが、見出し写真を拡大すると(クリックすると)、 かろうじて側面のセットバックのギザギザが見える。 GEビルの内部は見そびれたが、 東側のインターナショナルビルの内部を見たのでご覧頂きたい(写真3)。
センター全体の形態は基本的にはマンハッタンのゾーニング法に基づいているが、 その哲学においては、「錯乱のニューヨーク」が指摘するような、 語られざるマンハッタニズムを代弁している。 すなわち、ゾーニング法に基づき経済効率を追求したときに自ずと現れる美意識がそこにあるのだ。 言ってみれば、地球上マンハッタンにしかない特殊な種族の生命体が、 今も、こうして我々の前に姿を曝し続けているかのようだ。 後から写真で見ると、尚更この簡素な構成体の美しさを感じざるを得ない。 そう、これはマンハッタニズム固有の美なのだ。
しかしここで受ける簡素さの印象については、 更に述べておかねばならない事がある。 この仕事以前からフッドは、自作において機能主義的発想を取入れたりモダンな直方体を組みあわせたり、 かなりモダニズムを意識した展開をしている。 この抑制された簡素さの印象は、 やはり当時のモダニズムの展開を彼らなりに充分意識した結果なのである。
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さて、ロックフェラーセンターはもともと歌劇場を建てる計画からスタートした。 当初の歌劇場計画(モリス案と呼ばれる)の建物の形を写真8に示す。 もしも当初のモリス案がそのまま施工されていたら、 ここ一帯は一体どうなっていたであろうか。 「錯乱のニューヨーク」に載っていたモリス案のドローイングは非常に細かく複雑で、 神秘的な雰囲気さえ漂っていた。 これはこれで、独特の神秘性を漂わせた空間を、ここに現出させただろうと思う。 特殊な場所という印象を、誰にでも植え付けたであろう。
実際、オペラという崇高な目的の為の場所としてはそれはふさわしかったかも知れない。 しかし、他となじまない、マンハッタンの中に突如現出した異質な空間となったであろう。 モリス案はゾーニング法の考え方を無視している。 ゾーニング法に基づいておれば、ブロック中央に思いきり高層のビルを建てて経済効率を良くした筈だ (ゾーニング法の斜線制限の形については ビルのセットバックについて を参照されたい)。 結局この案は何か、マンハッタニズムとの間に、 言うに言われぬ折り合いのつかない異質さを備えていたといえよう。
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最後に一つ苦言を呈したいことがある。 ロックフェラーセンターのアヴェニューオブアメリカ西側には、 単純な羊羹ビルが3本ぶっ立っている(写真10に一つ見える)。 あれも後から作られたロックフェラーセンターの一部なのだが、XYZビルと揶揄られているらしい。 GEビルなどの創建当初のビルを見た後だと、何とも個性のないつまらないビルに見える。 まさに名前はXYZで十分だ。某X某Y某Z・・・。 きっと、モダニズムが吹き荒れた一番つまらない時代に作られたのだ。 ポストモダニズムになってから作られたらちょっとは面白かったかも知れない。 作り手が過去のマンハッタニズムを正しく理解していればの話だが。
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