マグロウヒルビル
McGraw-Hill Building (1930)
by レイモンド・フッド (Raymond Hood)


上に行くほど明るい色調。頂部で紺碧の空に溶けてゆき、タワーの存在を消す
金色の窓のシェードに対し寒色系の全体の色調(補色)。窓の垂直枠の暗緑青色が両者を繋ぐ
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「錯乱のニューヨーク」のレム・コールハースは、 このビルを「マンハッタニズムという炎を内部にかかえるモダニズムの氷山」と形容している。 モダニズムだというのは、建物の外形が平たい直方体を組みあわせて作ってある上に、 モダンなカーテンウォールでガラス面を多く取っているからだろう。 また、このビルのセットバックは、 デイリーニュース社ビル のセットバックを単純化したもので、 趣旨としては同ビルの場合と同じく、合理性をうたっている。 モダニズムが言うように日光を充分取入れられる事を狙っているのだ (当然それはオフィス賃貸価値を高める)。

マンハッタニズムだと言うのは、建物がセットバックしている事に加えて、 フッドならではのマンハッタン建築に対する執念がこのビルにも反映しているからだ。 それは色だ。

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このビルは全体が青緑系で、窓には金色っぽいシェードがかかっている。 窓の縦のさんが暗い青(明度・彩度の低い紫)で、全体の色と窓のシェードの色をつなぐ役目をしている。 この窓の金色が、光を反射して炎に見えるので、上の「炎」という形容が出てきている。 緑青の横帯部分には、機械製のテラコッタ(陶器の一種)が使用されている。

ビルの青緑色は頂部で紺碧の空に溶けてゆきタワーの存在を消す。 空に溶けてゆく摩天楼、そして窓のシェードは内部の幾多の人々の活動を反映して燃え上がり、 外壁の補色である金色に輝く。 マンハッタンの過密した舞台=摩天楼に、フッドならではの色の演出が施されているのだ。 彼は アメリカン・ラジエター・ビル から5年で、こんな表現に辿り着いたのだった。

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とまあ言うわけだが、行った日は曇りで、このビルが青い空に溶け込むところは見られなかった。 色の演出と言っても、そんなに明確に感じられるものではなかった。 だいいち金色のシェードと言っても、かなり色あせて見えるし・・。 それでも、これだけ青緑色のビルというのは他にないからユニークだった。 摩天楼としてどう見えるかという事より先に、 頂部の意匠が特徴的なので マグロウヒル出版社のコーポレイト・アイデンティティになっちゃってるように見えた (現在は実は持ち主が変わっている)。

あと1Fホールの意匠も見たかったのだが、日曜で中には入れなかった。 写真6に僅かに写っている。

しかしそれにしても、1930年代にこんなにガラス張りで薄板形に近いビルは、 NYになかった事に注意すべきである。 本格的に薄板形のモダニズムビルが NYに到来するのは、1952年の レヴァーハウス と、1953年の 国連本部ビル からである。 なんとその20年も前にこんなビルがあったのである。 これは1932年の、 ヒッチコック、ジョンソンのインターナショナルスタイル展のカタログに載ったNY唯一のビルであった。

見に行く人には、一つだけ注意して欲しい事がある。 このビルはポートオーソリティ・バスターミナルの西隣にあるが、 この周辺はニューヨークの中でも危険地帯とされている地区だ。 撮影していた私の回りにも、変な黒人や酔っぱらったおっさんが来てわめき始め、 街の雰囲気がおかしかった。気をつけよう。






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地図


[参考]
  • 「錯乱のニューヨーク」レム・コールハース著、筑摩書房
  • "AIA GUIDE TO NEW YORK CITY", Three Rivers Press, 2000


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